僕の奇妙な初夢 (BD-02)

僕は以前良く初夢を見た。初夢は誰でも見ているから別に珍しいものではない。しかし僕の初夢は少し奇妙なものだった。初夢は元旦の夜ではなく1月2日の夜見る夢を言う。昔僕の夢は良く当たった。それには理由があった。昔僕の学生の頃、尊敬する父が末期癌に侵されて余命いくばくもなかった。医者は家族にもう2、3ヶ月ぐらいしか持たないだろうと告げた。僕は悲しかった。寡黙で働きずめに働いて、悪事を働かず(当たり前か)数人で始めたパン屋を日本有数のパン屋に育て上げた。といっても社長の下でである。日本有数といっても日本で4、5番目のパン屋だ。端で見ていても可哀想になるぐらい真面目だった。資本家の社長が3人の若者を使って始めたパン屋で、その頃戦後間もない頃で、食料が絶対的に不足していた。武田信玄の子孫と称する社長は(だから山梨県出身)日本の食糧事情を少しでも良くするためパン屋を始めた。社名もそれに基づく。この会社は世情を映しどんどん大きくなった。といっても北海道なので限界はあったが…。父はそこで良く頑張った。朝は暗いうちから出て行き、帰りもいつも遅かった。とても普通のサラリーマンのようではなかった。

その内若者3人の内一人YNが悪心を起こした。といっても既に3人とも取締役であったが。そのYNは大手商社と組み、組合と結託し、会社乗っ取りにかかった。この悪事は見事に成功し、創業社長は退任、取締の一人HMも退任、YNは当然社長になった。しかし僕の父だけは残った。真面目すぎて止めさせる理由がなかったからである。また実務に精通している父を止めさせる事は出来なかった。父は歯を食いしばって黙々と仕事をした。社長の息子は金持ちの大学生でフラフラ遊んでいたが、この状況を見て怒り心頭に発しこの会社に入ってきた。勿論殆どの株を元社長が持っていたから、立場は決して弱くなかった。YNと組合の委員長は権力を握り、当然のように悪いことをした。こういうことは映画の世界だけではなく、世の中では良くあることだという事が僕にも分かった。父は黙々と働きながら、家に出入りする祈祷師のアドバイスを受けつつ、彼らをじっと見ていた。そしてそれから1年後、彼らの悪事の証拠を山ほど積み上げ、取締役会で鋭く追及した。寡黙な父が良くこんな事を出来たと、人間の意外性に驚いた。彼らは退任し会社は元の正常な状態に戻った。父は社長になれと薦められたが、自分は専務のままで良いと、そのほうが仕事が出来ると、社長就任を断った。

父を変わった人だと思うとともに、その頃からその心情が分かるような気がした。僕もデザイナーを目指していたから、仕事が面白いのであって、地位などはあまり関係ないと思っていた。父は引退した社長を復帰させ、さらにその頃左前になっていた北海道で2番目のパン屋に社長として立て直しに行った。これも1年で立て直し、元の会社に復帰した。その後北海道を全て押さえるため、道内の拠点にに次々と工場を作っていった。父が過労で?倒れたのはその頃である。入院し調べてみると、既に胃癌の末期であった。今までの父を見ていて、父の生き様を尊敬していた僕は、一人で祈祷師のところに行き、他の信者に混じって祈った。どうぞ自分の命に代えても父をお救い下さいと。しかし祈りもむなしく6ヵ月後に死んだ。それも律儀に、僕の卒業式の3月15日にである。この経験は僕の心に強い衝撃を与えた。

さらに前に戻るが、会社を追われたYNは悪事で貯めたお金で大きな工場を建て、パン屋を始めた。でもその後が悲惨であった。まず自分の目の前で、小さな息子が沸騰する大釜に落ち死んだ。そのしばらく後、建てたばかりの工場に雷が落ち、工場は全焼した。しかもその頃は雷は保険の対象にはならなかったのである。YNの会社は倒産し、彼は気が狂い廃人のようになったという。まるで仏教の因果話を見ているような悲惨なものだった。それとそのこと以来僕は大手商社を信用しなくなった。その商社はYNが追放された翌日、何事もなかったように新しい担当者を送り込んできた。「よろしくお願いしま〜す!」と明るく。彼らにモラルや正義などはない。話は横にそれたが、僕が自分を捨てて父の回復を願ったことは、僕の魂に変化を起こした。それ以来僕の夢が非常に当たるようになったのである。つまり自分を捨てて他を救おうとする心が天の心とつながった?のだと思う。但し今は不信心になったので、予知能力は低下した。でもこれで良いと思っている。別にシャーマンになろうとしている訳ではない。話を元に戻して初夢について。

もう数十年前のことだから記憶も曖昧になっているが、よく意味の分からない初夢をよく見た。例えば住んでいた横浜で深夜、海のほうに大きな火が見える。皆が集まってそれを見て騒いでいる。しかし何のことか分からない。ところがその年の暮れに三原山が噴火した。テレビ映像で見るように直列の噴火口から見事に火を噴き出していた。三木が首相になった時は晴天の霹靂の夢を見た。何だこれは?しかし自らが青天の霹靂と言ったので夢の意味が分かった。昭和天皇がお隠れになった時は、まるでSF風、まるで判じ物、明るい夜に見事な白い雲が湧いている。その中に平たい厚みのある金属板が3つ、大きさがそれぞれに違う、月光を浴びてエッジが鈍く光りながらゆっくりと去っていく。まるでその後来る「2001年宇宙の旅」のモノリスのような感じ。ウーンッ!一体これは何だ、ちっとも分からない。しかし昭和天皇が亡くなられて、なんとなくその意味を察した。3つの時代が過ぎていくのである。明治・大正・昭和と…。金属板は大きかったり小さかったりした。時代の長さを示したものかも知れない。美しく荘厳な光景であった。でもこの解釈が当たっているかどうかは定かではない。難しい謎々だ。つまり見せるほうもどう表現していいのか悩んでいるのだろう。エジプトのファラオの夢も、ヨセフが説くまではまるで奇妙な夢に過ぎなかった。その他、昔自民党が大敗し細川政権が出来た時、つい最近小泉が衆院を解散し(例の郵政選挙)大勝した選挙は比較的分かりやすかった。今回の民主党大勝は夢に見なかった。でもこの結果には満足している。  (2009年10月9日)