ノッポ3兄弟 (PD-123)

大昔といっても40年位前、僕が若葉町でフリーのデザイナー、イラストレーターをやっていた頃、近くにこじゃれたアルフィーという喫茶店があった。そこには下妻?3兄弟がいた。この兄弟は中々見事なもので、全員180センチ以上の美丈夫?であった。長男は早稲田建築科出の建築家、次男は上智英文科出の翻訳家、三男は立教経済出?で商社マンをやっていたが、今はアルフィーの経営をやっている。というかカウンターに入っている。彼らは皆若かったし、しかも3人揃って顔もいい。名前も純、律、翔?と皆一字名で揃っていた。この店は営利目的というよりは自分達の仲間が集まる場所のようであった。

僕のフリー時代約5年間は若葉町の梅ノ木アパートで過ごした。このアパートは大塚着物学院の出口にあり、アパートの傍には由緒ある梅ノ木稲荷があった。この稲荷は昔東宮御所から移されたものらしい。この稲荷には神の使いの白蛇が住み、僕のアパートの大家のおばあちゃんが蛇の卵の殻を見たという。若葉町は四谷と信濃町の間の谷底にあり、その通りを進むとすぐ東宮御所に突き当たる。都心に近く至って便利な穴場の町であった。そしてすぐ近くにチョット有名なラーメン屋の珍萬があり、スーパーの丸正があり、庶民的で美味い洋食屋もあった。だから中々暮しやすい町であった。その後僕は勤め始めたが、ストの為電車が止まった時歩いて出社したが、虎ノ門にあるDA社まで30分しかかからなかった。

僕は自由業の気楽さで毎朝起きると、まずアルフィーでお茶を飲みタバコを何本も何本も吸って目を覚ました。このスタイルは40年たった今でも変わらない。今はマンションのベランダで鉢植えを見たり遠くの街並みを見たりして、コーヒーと緑茶とタバコで目を覚ます。(この町の高台の住宅街は宮崎駿のアニメの町のようだ)僕の隣には部屋猫ブンタがチョコンと座っている。その頃はフリーをやっていた為生活時間が段々後ろにずれてきて、真夜中に仕事をやり、明け方寝て、午後に起きるようになった。真夜中にロットリングとカラーインクでイラストを描き、仕上がった時にその絵を見てニッと笑う。我ながら段々薄気味悪い存在になっていった。その不健康さゆえに僕はフリーを止め、再び広告代理店に勤め始めた。

時がたち、僕は横浜に引越し、アルフィーも藤沢に移った。以前僕は一度だけ藤沢の店を訪ねた事がある。その時も見事に3兄弟が揃っていた。藤沢駅の近くの表通りにある良い立地だった。この町は平坦でご存知のように江の島に近い。僕はこの頃散歩コースで北鎌倉〜鎌倉〜江の島〜藤沢を良く通る。でももう数十年アルフィーには行っていない。多分もう店はないだろう。時がたてば状況は変わる。まさに諸行無常である。今は新橋のマルキンがなくなり、おでんのお多幸?も消えた。(鳥繁や鳥助、大串、中川はまだ健在だ)リリーは相変わらずドアが閉まったままだ…。

今日の夢は僕と女房が港南台に行き、その帰りに藤沢に寄る。僕らは近々藤沢に引っ越すようだ。夢なので藤沢駅は坂の途中にある。僕らのアパートは駅のすぐ近くにある。駅の坂を下る途中にアルフィーもある。僕らは懐かしさと相手を驚かすためにその店に入っていった。店は広かったが中は何だか荒れていた。ヘタをすると取り付け騒ぎの後のようで、木材やゴミのようなものが方々に散乱し、食器を入れる棚もなかった。店の中は薄暗く、次男坊とやや太目の白いフワッとした服を着た女性がおり、二人とも何だかバツが悪そうな顔をしていた。そして男のほうが「まずいなァ」と言った。次男坊の律さん?はあまり変わっていなく、少し太めの女性は昔ホッソリした美人の彼の奥さんだろうか?僕らは都合の悪い所に入って行ったようだ。埃っぽいカウンターには、それでもドリップでコーヒーを入れていた。しかし夢なのでコーヒーはカフェオレだった。(ドリップの中味がカフェオレだった)懐かしいのか侘しいのか、何だか良く分からない夢だった。


時がたてば人も変わるし店も変わる。あれからもう40年も過ぎているんだ。若々しく美しかった青年達ももう白髪の老人になってしまう。当たり前の事とはいえ侘しいもんだ。僕はなるべく昔を懐かしまないようにしているが、それでも時々こんな懐かしいが侘しい夢を見る…。  (2010年10月27日)


※このブログを書いた数日後、僕は女房から相談を受けた。女房の姉の娘が離婚の危機に瀕しているという。相手の旦那は中々陰険な男で、周りの親族にも家庭には近寄らせない。そして僕の姪を精神的な虐待にさらすという。姪は元々ノンビリしているのでほとんど気にしていなかったが、この頃の虐待が凄いのでついに離婚を考えるようになった。旦那は保険会社に勤めやり手なようだが、給料は不明で生活費しか寄こさないようだ。そのため姪が今離婚しても生活が出来ない。勿論旦那には外に女もいる。女房の姉もノンビリしていてこんな事には慣れていない。だから僕に女房を通して相談してきた。僕はしょうがないのでサイトで離婚訴訟や離婚調停の記事をコピーし、僕なりの見解を書いて女房に渡した。この問題には弁護士が必要だ。それと今はこのような問題は日本中に溢れているので、無料の相談所も沢山ある。

上記の夢は僕の事ではなく、姪の事として当てはまるかもしれない。次男坊が言った「まずいなァ」という言葉もその旦那の本音だろう。彼も次男坊だ。隣にいた太目の奥さんは律さんの奥さんに似ていなかったので、僕の姪かもしれない。多分他人の介入を嫌がった言葉だろう。夢で見た部屋は何だか荒れていた。姪も可哀想に。今やドメスティック・バイオレンスは日本中に溢れている。だから女性と言えどあまりノホホンとしては危ないんだ。何時何が起こるか分からない。(子が親を殺し、親が子を虐待する。日本も嫌な国になったもんだ…)