ロケット便 (PD-136)

僕と義姉の息子TS君が一階の受付を済ませ最上階に上がる。このビルはまん丸の何だかピカピカした未来的なビルだ。最上階の真ん中も丸い台のようになっている。その上に下から貰ってきた30センチ位のロケットを載せる。そしてロケットの下のアルコールランプに火をつける。下が熱せられるとロケットが火を吹くらしい。そして北海道まで飛んでいく。ロケットの中にはTS君の書類が入っているようだ。履歴書か経歴書か?彼は北海道に勤めるようだ。あるいは北海道に職を求めているようだ。

しかしロケットには中々火が付かない。おまけに天井は塞がっている。一体どうなっているんだろう?最上階には白衣の研究者らしい男が二人いて、僕らに何かアドバイスしている。TS君の顔は中々落ち着いて見える。それと体がでかくなっている。多分運動不足で太ったんだろう。彼ももう30代後半になるんだろうか?少しは社会の事が分かってきたんだろうか?しかしこのままではロケットは天井にぶつかるか、横に飛ぶと僕らを殺傷しかねない。僕らは一階に降り佐川急便に?打ち上げを任せようとする。こんな小さなロケットが成層圏まで上がって、北海道のピンポイントに着陸出来るのか?何だか不思議・不条理なロケットだ…。

TS君は僕の甥になるのか?義姉の息子だ。小さい頃から父親の転勤が多く、そのせいかスッカリ社会不適応の人間になってしまった。転勤が多かったので友達も作らなかった。一応青学の経済を出ているので馬鹿ではない。しかし卒業後音楽関係に進みたくてウロウロしている内に、すっかり就職の機会を失ってしまった。その世界はよほどの才能がない限り入れる業界ではない。僕は以前女房に頼まれて自分の会社にウロウロしていた甥を入れ、僕のやっているイベントの広告・販促業務をやらせた。お金を集める営業ではなく、お金を使える恵まれた業務だ。彼には営業なんかは出来そうもない。彼は広告・販促業務を一応そつなくこなした。だから無能ではない。但し広告・販促の企画は全て僕のほうで立案した。


その内僕の会社は潰れた。その時甥の言った言葉がシャクに触る。「潰れる会社には勤めたくない」と。誰も潰したくて潰した訳ではない。つまり彼は社会の事は何も分かっていない男なのだ。僕が大手広告代理店を紹介しようとしても見向きもしなかった。その後彼は母にたかって暮している。義姉は二人の子供の心配事で苦労が絶えない。(長女も家庭問題を抱えている)TS君は人生の黄金期を無為に過ごし、もう40に手が届きそうだ。一体彼はこれからどうするんだろう?大手通信会社の研究者だった彼の父は彼の卒業後に死んでいる。彼は父の薦める大手企業にも行かなかった。そして実現不可能の夢を追って挫折した。でも今の日本にはこういう若者、こういう大人が多いんだろう。本当に困ったもんだの今日この頃だ…。 (2010年11月20日